どうしてどうしてどうして!
わたし、だたをこねるみたいにむすっとして、床にはりついてた。

絶対、動いてやるもんかって。てこでも動かないっていうけど、わたし、ひもでぐるぐる巻きにされて、そのひもの先っぽをゾウやライオンに引っ張られたって、絶対に動いてやるもんかって思った。

「お嬢様」

やれやれ、困ったなあ。みたいな声であの子が言うから、わたし余計に腹が立つ。
あの子はやっぱりロボットだから、わたしの気持ち、分からないんだ。

「どうして出て行くの?」

納得できる理由を聞くまでどけてやるもんかって、わたしあの子をきっとにらむ。

「どうしてメンテナンスの人のところに行かなきゃいけない」

本当に聞きたいのは、多分、こっち。だけどわたしの声、どんどん小さくなっていって、最後の方はただ「ふうふう」って息だけぬけていくみたいになった。

「そういう風になっているからです」

あの子、そういうと床に貼りついてるわたしをひょいっと持ち上げた。子犬でも抱き上げるみたいに、わきの下に手をいれて。

わたしいやいやって首を何度もふったけど、あの子「わがまま言わないでください」って今にも言い出しそうな顔で、わたしを扉の反対側に下ろす。

「おに!」
「私はロボットです」
「おにロボット!」

わたしぎゅっとくちびるをかんで、言っちゃいけないって思ってたこと、たくさん言った。「ロボットだから分からないんだ!」なんて、本当は言いたくなかったのに。

「ロボットなんかだいっきらい!」

言えば言うほど、空っぽになっていくみたい。わたしとうとう泣きだして、あの子やっと困ったなあって顔でふりかえった。かぎも扉も、開いてる。

そよそよってあの子の門出を祝すような風が、わたしのなみだ、ぱりぱりにしようとする。世界の全部が敵みたいに思えて、わたし「どうしてだめなの」って、自分に言い聞かせるみたいにつぶやいた。

「どうして、必要なものだけじゃだめなの。どうしてこのままじゃだめなの。メンテナンスの人は月に一回この家にくる。わたしはここにいる、きかいのきみと一緒に。どうしてそれだけじゃだめなの」

なにもまちがってない。なにも欠けてない。誰も傷ついてない。
それなのにどうして、あの子はここを出て行って、メンテナンスの人のところに行って、わたしはそれを見送らなきゃいけない。

あの子、はじめからわたしがそう言うって分かってたみたいだった。
あの子の声、びっくりして思わずなみだも止まっちゃうくらい、やさしい。

「お嬢様は機械じゃないからです」

わたしはっとして、でもすぐに分からなくなって、だけどあの子の言ったことが体の奥のひりひりしてるところに、オブラートみたいにはりついた。

「必要なものや大切なものは、一つじゃありません。欲張りとかないものねだりとか、そういう話でもありません」

あの子の言葉、なぞなぞみたい。わたし「分かった」って言えなくて、でも、一つじゃ足りないっていうのは、なんとなく分かってしまって。だから。

「マスターによろしく」

あの子、うつむいてるわたしでも分かるくらい、びっくりしてる。あの子、わたしのこと何でも分かってるつもりだったんだって思って、ちょっとだけ得意になった。

「今度はふたりであそびに来て。ホールケーキ、ひとりじゃ食べきれない」

わたし、顔をあげて「バイバイ」って手を振る。あの子、ロボットのくせに泣きそうな顔をして「お世話になりました」って頭をさげた。

お世話になったのはわたしの方なのに。わたしそれがおかしくって「あはは」って笑う。

笑うのはどういうわけか、なみだと同じくらいしょっぱかった。

『きかいのきみときかいのはなし』
2015.9.25---END.

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